顎関節症ってなに?
- 1.顎が痛い(顎関節痛、咀嚼筋痛)
- 2.口が開かない、顎の動きがおかしい(開口障害、顎運動障害)
- 3.顎の音がする(顎関節雑音)
の3症状うち1つ以上があり、他に明確な原因を持つ病気がない場合をまとめて「顎関節症」と呼びます。
筋肉の障害(痛み、凝りなど)
関節の靱帯や軟骨の障害(痛み、動きの障害など)
骨の変形
などの多くの病態が含まれます。
特に、
口を開け閉めする時に顎が痛い
口が開かない(指が縦に3本入らない)
音がしなくなって、急に口が開かなくなった!
という時は要注意。早期の診断・治療が必要です。
女性に多い顎関節症
女性は男性の2~3倍の来院数です。
女性は男性よりも骨格や靱帯などの支持組織が 弱く、筋肉の緊張やストレスに対して感受性が高い上に痛みに敏感であるからとも言われています。
顎関節症の原因って?
世界的に、顎関節症は「多因子疾患」(多くの要因が複雑に重なって発症する疾患)であると考えられています。
「多因子」には、
- ストレス
- 歯ぎしり、食いしばり(夜間、日中)
- 歯牙接触癖(TCH)
- 睡眠不足
- 姿勢
- 悪習癖(頬杖、異常な位置でかむ、顎の音をわざと鳴らす、舌の異常な動き等)
- カフェイン、ニコチン、アルコールの摂取状況
- かみ合わせ
- 個人の解剖学的特徴(筋や靱帯、軟骨、骨の形や厚さ etc) …などが含まれます。
30年ほど前までは「かみ合わせこそが顎関節症の大きな原因である」「かみ合わせ一因論」という考え方が主流でした。
しかし、その後の多くの大規模な研究の結果、「かみ合わせは顎関節に関与するたくさんの因子の中の1つにすぎず、むしろ影響は少ない」という考え方が20年ほど前からは主流となっており、かみ合わせを顎関節症の主な原因とする考えはかなり古く、世界的にも否定されています。
また、かみ合わせの異常が顎関節症の「原因として」ではなく「結果として」起こることも分かっており、症状が強い時にかみ合わせを扱うことは禁忌(医学的にやってはいけない)の場合もあります。ただし、状況によってはすぐに調整が必要な時もあります。
大切な事は、顎が痛いからと行って、顎に負担をかけないようその場しのぎで歯を削る等、咬合調整(歯を削って行うかみ合わせの調整)は、一度削ると元に戻すことができませんし、特に天然の歯の場合は 、元に 戻りませんから、非可逆的な(元に戻せない)治療を急がずに治療をすることが大事なことです。
かみ合わせの異常が顎関節症の原因の一要因なのか、結果なのか、一要因であればどの程度影響しているのか、これが不確かな状況ではかみ合わせの調整は行いません。
顎関節症の病態分類について
他の疾患の可能性がなく顎関節症と診断された場合は、追加の検査、所見を総合的に判断して次のように病態の分類を行います。
- 咀嚼筋痛障害:咬むための筋肉の痛み
- 関節円板障害(復位型、非復位型):関節内部の円板(軟骨)の位置や運動の障害
- 変形性関節症:顎関節の骨の変形
治療について
顎関節症は長い時間の経過と共に症状が緩和することが多い疾患(self-limited な疾患)です。そのため、治療は侵襲が少なく可逆的(元に戻せる)な治療が基本となります。Self-limitedとはいえ自然治癒には長い時間が必要だったり、中には重症化する場合もあります。病悩期間を短くし重症化を防ぐためには早めの診断、治療が望まれます。
具体的な治療方法は下記の通りです。
①セルフケア
顎関節症の治療で最も重要で不可欠なのが患者さん自身による「セルフケア」。
日常生活での注意点、歯のくいしばりや歯牙接触癖の改善、ストレッチ、日常の口を開ける練習など、患者様の状況に合わせて指導いたします。
②理学療法、運動療法
患者さん自身に自宅で行っていただく運動療法の他、来院時に歯科医師にて専門的なストレッチの処置を行います。
③薬物療法
痛みや筋の緊張が強い場合に消炎鎮痛剤等の薬剤を使用します。
④スプリント治療(マウスピース)
顎の筋肉や関節の緊張を緩和する効果があります。
当院は、保険適応のスプリント治療のみを行っています。費用はセット時に自己負担が5,000円程度(3割負担の場合)です。
⑤関節穿刺(パンピングマニピュレ−ション、顎関節洗浄)
顎関節へ直接注射を行います。
- 関節内を膨らませて関節円板(軟骨)の動きを滑らかにする
- 関節内に直接炎症や痛みを除く薬を投与する
- 洗浄により炎症物質を洗い流す
などの目的で行います。
顎関節症の治療は非侵襲的な治療が優先されるため、この処置を行うのは全患者さんの数%の重症な方に限られています。当院ではこの治療は行っていないため、必要な方は専門医院へ紹介となります。